
古谷さん
当法人は設立当初から女性職員の割合が多く、「育児と仕事の両立」は課題の一つでした。私たちの仕事は、利用者さんとの信頼関係を築くこと、支援のスキルを高めることに時間を要します。利用者さんは一人ひとり、特性が全く異なります。対応をマニュアル化することはできないし、人と人とのことなので、相性もあります。でも、だからこそ「通じた」「分かり合えた」という瞬間に得られる喜びは大きいです。
そういったせっかく積み上げてきた経験が失われることは、当法人にとっても大きな損失になる。そう考え、育児休業を取得した後、スムーズに戻ってこられるような仕組みを整えてきました。復帰の際には面談を行い、勤務時間を短縮したり、生活リズムに合わせて事業所を変えたりと、本人の希望を聞きながらできる限り柔軟に対応しています。制度面でも、15年ほど前から育児短時間勤務の対象を小学校就学前までに拡大。子の看護休暇や介護休暇は時間単位で取れるようにしました。
2009年には定年を70歳まで延長しました。ベテラン職員がいることで利用者の皆さんは安心して過ごせますし、若手職員にとっては頼れる存在になります。働き方の柔軟性を高めることは、結果的に職員の定着にもつながっています。育児だけでなく人生のいろんなステージに寄り添える職場でありたいですね。
稲葉さん
2023年10月には「くるみん」を取得しました。これは、認定の取得を目指したわけではなく、これまでの取り組みが自然と形になったものだと思っています。
産後パパ育休制度の導入をきっかけに育休を取得した男性職員もいますし、子の看護休暇を取得する職員も少しずつ増えています。育休を取得した先輩職員が積極的に声をかけたり、相談相手になってくれたりと、アットホームな雰囲気があります。制度があること以上に、こうした日常の支え合いが大きいと感じています。
常務理事・管理本部長の古谷良太さん古谷さん
コロナ禍の経験をきっかけに、感染症や家族の体調不良にも対応できる特別休暇も設けました。本人や家族の療養で急に休まざるを得ないときに、有給とは別に年5日まで休みが取れる仕組みです。医療・福祉の現場ではどうしても感染リスクがありますから、「無理せず休める」環境があることは、職員にとっても安心感につながっているのではないでしょうか。
働きやすさを求めるときには、「お互い様」という考え方が不可欠です。一昔前は育休について「自分の時はそうではなかった」と言うような人も正直いました。しかし、世代が入れ替わり、「育児と仕事の両立」が普通のことになっていくにつれて、自然と理解も広まっていきました。事例が増えたのに伴い、育休から復帰する際には組織として柔軟な対応をしてくれることが分かってきて、職員それぞれが自身の働き方・休み方をイメージできるようになったのも、良かったのかもしれません。
稲葉さん
最近は、介護休暇の制度を活用する職員も出てきています。まだ件数は少ないですが、今後は育児支援と同じように、介護も“当たり前に使える制度”として根づかせたいと思っています。そのためには、介護する側だけでなく、フォローする側の負担を軽減することも大事。IT化やDX化を進めて、業務の効率化を図っていきたいと考えています。
「お互い様」という気持ちは、日々のちょっとした声かけや気遣いの積み重ねでしか育たないものです。これから先は、「介護と仕事の両立」も大きなテーマになっていきます。当法人の職員の平均年齢は現在、48歳。家族の介護に直面する職員も増えてきました。私自身、家族の介護を経験して感じたのは想像以上に不安だということです。私の場合は、上司に相談して、制度や市役所での手続きについて教えてもらったことで気持ちが楽になりました。どんな制度があるのかを周知しつつ、困ったらいつでも相談できる体制を整えておくことが大事だと実感しました。
育児や介護だけでなく、体調不良や家庭の事情など、誰にでも支えが必要なときはあります。「あの時に助けてもらったから、今度は自分も」というように、皆が自然と「お互い様」の気持ちになれるような良い循環をつくり出していきたいですね。
管理本部事務の稲葉歩美さん