社員がうちの良いところとして挙げるのは、有給休暇の取りやすさです。今、取得率は68%くらいですが、80%にはしたいですね。会社として把握する必要はあるので届け出はしてもらいますが、理由は特に聞きません。自分の仕事をしっかり終わらせていれば、有休は何に使ってもらっても構わないですから。ほかにも、フレキシブル働き方制度の導入や、全従業員を対象にしたガン保険加入、人間ドック全額補助など健康経営も意識しています。課長や部長などの役職を廃止して、フラットな組織づくりも進めています。「ティール組織」の5段階でいえば「グリーン」、従業員の多様性を尊重することで、それぞれの主体性が発揮できる企業でありたいですね。
今は、とにかく良いと思ったことは、他の企業の真似でもいいのでどんどん取り入れています。例えば、利益の1%、従業員の1%、製品の1%を社会貢献に使うという「1-1-1モデル」。ボランティア休暇の取得や、応援したい企業や団体に会社が代わりに寄付をするなど、社会貢献できる方法を模索しています。当社は、技術力は高いですが、コアと呼べるものがあるわけではありません。それでもしっかり利益を上げて、働き方も給与も、従業員が満足できる会社になれる。それを証明することが、今の目標です。
私が社長になる前のことですが、リーマンショックの後は従業員を土日に出勤させるわけにもいかず、自分一人が出社して、仕事をしていました。そのときは、「会社のためには頑張るしかない」と自分に言い聞かせていましたが、本音を言えば「なんで俺ばっかり。おまえらも手伝えよ」という不満ばかり。その頃、たまたま会社の本棚にあった「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司著)を読んだことが、大きな転機になりました。それまでは、会社はお客様のためにあると思っていましたが、そこに書いてあったのは「一番大事なのは従業員とその家族」ということ。その内容に衝撃を受けて、私も従業員のためにやっていこうと心に決めました。
社長になったときまず、「誰も首にしないし、辞めたいと思うような会社にもしない」と宣言しました。今、振り返ると、よくそんな勇気があったなと思いますが、皆のことを信じていたからこそ出た言葉だったのかもしれません。安心して働ける環境があれば、仕事に注力ができる。その結果、生産性が上がり、売り上げも増える。従業員を大事にすることと、会社の利益を出すことは、トレードオフの関係ではなく、同じ方向のものだと断言できます。これからも、人を大切にする経営を続けて、目標を達成していきたいです。